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  『憧れの都会』


 吹き抜けるような青い空。それを遮らんばかりに立ち並ぶビル街の喧騒は、その空模様とは対照的に激しかった。歩道は溢れかえるほどの人混みに見まわれ、車道にはエンジン音やクラクションの嵐が吹き荒れている。そのせいか、空気の乾燥した寒さにもかかわらず、道行く人々は脱いだ上着を肩や腕にかけて歩いているのだ。物々しい都会にとって、唯一の癒やしである植え込みの木などはなんとも息苦しそうである。
 ふと、私の目の前を通り過ぎた男が、口に含めていたガムを路上に吐き捨てた。その路上にこびりついたガムを私がじっと見ていると、そのガムを、今度はどこの誰かも分からない人の足が踏みつけ、そんな事にも気付かずにすたすたと歩き去っていく。
 都会はかくも、このようなものであるか。夜行バスにて長旅の末、ようやく到着したバス停に降り立っていた私は、この地に足を踏み入れた際に覚えた期待など、とうに忘れ切っていた。

                              了

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