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  『今昔星空』


 ある会社帰りの夜道。人通りの少ない住宅地の道には等間隔に設置された電灯の光と、極稀に私の横を通り過ぎる車のライトぐらいしか明かりがない。
 仕事で溜まりに溜まった疲れから、本当にただの気まぐれからか。私は自宅へと向かう足を止め、ふと空を見上げた。
 夜空には強く輝く星がいくつか浮かんでいた。目につく星といえば、恐らく北極星と思われる星と一番目か二番目くらいに明るい光を放つ星々ぐらいだ。どの星も感動するほど綺麗という訳でもなく、また数えきれないほどの量がある訳でもない。「満天の星空」という表現には程遠い、なんとも物足りない星空である。
 昔の星空とは、一体どれほどの壮大さを秘めていたのだろうか。
 頭上にある星空を見上げながら、私はそう思った。現代に生まれた私からすれば、プラネタリウムや映像などで目にする、あの綺羅びやかな星々のドームが実在した事などにわかに信じがたいのである。昔の人は夜空に無数と散りばめられた星々を見て、数多の星座を考え出したくらいだ。きっと、どんな娯楽にも勝る「星空観賞」なるものがあったに違いない。
 それに比べて、今の星空はなんと退屈な事か。微弱な光しか放てない星は影を潜め、ただ単に強い光を持つ限られた星だけが輝く事を許される。空の大部分を占める暗闇には、まだ無限の星々が存在しているはずなのに。私のように会社の末端で働く人間にすら、その輝きを認めてもらえないとは、この上なく不憫だとしか言いようがない。
 ぼんやりと星々を眺める事もほどほどに、私は再び自宅へと歩き出した。明日の出勤に備えて、今日も早く寝なければ。

                              了

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